2020年放送の続編で視聴者の度肝を抜いたのが、黒崎が半沢を「直樹」と下の名前で呼ぶようになった演出です。それまで「半沢次長」「半沢部長」と呼んでいた黒崎が、なぜ急に距離を詰めたのか。そして、画面越しにも伝わる異常なまでの密着演技はどのようにして生まれたのでしょうか。
台本にはなかった?「直樹呼び」に込められた片岡愛之助の意図
報道各社のインタビューにおいて、片岡愛之助さんはこの「直樹呼び」誕生の裏側を明かしています。実は当初の台本では、従来通り「半沢!」と呼ぶ記述になっていました。しかし、第1シーズンから数えて長年にわたり凌ぎを削ってきた二人の関係性を考えた際、愛之助さんの中に「普通に戻るのではなく、もう一歩踏み込んだ表現がしたい」という強い思いが芽生えたといいます。
現場で福澤克雄監督らとディスカッションを重ねる中で、「ここは『直樹』と呼んでみるのはどうか」というアイデアが浮上しました。愛之助さん自身、テスト段階で実際に「直樹」と口にした瞬間、背筋がゾクッとするような手応えを感じたそうです。単なる敵対関係を超え、互いの実力を誰よりも認め合っているからこそ成立する「直樹呼び」は、こうして現場の熱量から誕生しました。
堺雅人が回顧した「鼻息がスッスッと来た」極限の接近芝居
黒崎の名言を語る上で、言葉そのものと同じくらい重要なのが「顔と顔が触れ合う寸前まで近づく超接近戦」です。2020年9月に放送された特別番組『生放送!! 半沢直樹の恩返し』の中で、主演の堺雅人さんは黒崎との共演シーンについて非常に興味深い証言を残しています。
堺さんは、黒崎が耳元で囁くようにセリフを放つシーンを振り返り、「愛之助さんの鼻息がスッスッと来た」「ちょっと新しい世界が開けそうだった」と独特の表現でその迫力を語りました。コロナ禍での撮影ということもあり、本番の瞬間以外は徹底した感染対策が取られていましたが、カメラが回った瞬間に愛之助さんが一気にパーソナルスペースへ踏み込んでくるため、堺さんにとっても予測不能な緊張感があったといいます。
歌舞伎の世界で培われた愛之助さんの発声技術と身体のキレが、テレビドラマのクローズアップ演出と噛み合った結果、視聴者にとっても「画面から圧が伝わってくる」唯一無二の映像体験が生まれました。