ここからは、イラスト制作やプラモデルの塗装、DIY、ネイルアートなどで実際に絵の具や塗料を混ぜる「減法混色」の実践テクニックに踏み込みます。色彩学の色相環(色の輪)において、赤と緑はちょうど反対側に位置する「補色(ほしょく)」の関係にあります。
補色同士を混ぜると、お互いの鮮やかさ(彩度)を打ち消し合う性質が働きます。そのため、無計画に混ぜると「ただの汚い泥水のような色」になりがちですが、混ぜ合わせる「比率」を10%単位でコントロールすることで、市販の絵の具単体では出せないプロ仕様の絶妙なニュアンスカラーを調色できます。
| 赤:緑の配合比率 | 出来上がる色味(カラー名) | おすすめの用途・活用シーン |
|---|---|---|
| 赤 8 : 緑 2 | ボルドー・茜色・テラコッタ | 赤の派手さを抑え、大人っぽい深みのある赤を作りたいとき |
| 赤 6 : 緑 4 | 赤茶色・マホガニー・チョコレート色 | 木の幹、レンガ、革製品、温かみのあるブラウンの塗装 |
| 赤 5 : 緑 5 | 黒褐色(チャコール・暗いグレー) | 黒の絵の具を使わずに、自然で立体感のある「影」を描くとき |
| 赤 2 : 緑 8 | オリーブグリーン・カーキ・モスグリーン | 観葉植物のリアルな葉、ミリタリー調の塗装、くすみグリーン |
なぜ絵の具の赤と緑を1:1で混ぜても「真っ黒」にならず「茶色」になるのか?
理論上の色彩学では、補色である赤と緑を1:1で混ぜると「黒(無彩色)」になると説明されます。しかし、実際に文房具店で買った水彩絵の具やアクリル絵の具の「あか」と「みどり」を同量混ぜると、真っ黒にはならず「こげ茶色」や「赤みがかった暗い茶色」になります。
これには明確な理由があります。市販の「赤」の絵の具(バーミリオンやカドミウムレッド系)は、純粋なマゼンタ(赤紫)とイエロー(黄)の混合成分に近く、少し黄色寄りの波長を多く反射する性質を持っています。一方、市販の「緑」の絵の具(ビリジアンやエメラルドグリーン系)も、黄色とシアンの混合で作られているため、赤と緑の両方に「黄色(イエロー)の反射成分」が共通して残っているのです。
その結果、赤と緑の成分がお互いを打ち消し合って暗くなったあとに、共通して生き残った「わずかな赤みと黄色の成分」が浮かび上がります。「暗い黄色〜暗いオレンジ」は人間の目には「茶色」として映るため、1:1で混ぜるときれいな茶色が出来上がるというわけです。
「黒は300色ある」の世界!補色で作る豊かな黒の表現
タレントのアンミカさんが放った「白って200色あんねん」「黒は300色ある」という名言について、総合情報サイト『All About』で2023年1月18日に公開されたカラーコーディネーター・松本英恵氏の検証記事でも、色彩科学やマンセル表色系、JIS慣用色名の観点から「わずかな色みの違いや明度・彩度の差によって、無数の白や黒が存在するのは事実」と解説されています。
絵画や塗装のプロは、影や黒い物体を表現するとき、チューブから出したままの「黒(ブラック)」をそのまま塗ることはめったにありません。市販の黒単体では、そこだけ光を完全に吸収してしまい、画面の中で不自然に浮き上がって「死んだ色」になってしまうからです。そこでプロが使うのが、「深紅(クリムゾンレーキなどの暗い赤)」と「深緑(ビリジアンなどの濃い緑)」を混ぜて作る『色彩を持った黒(クロマティック・ブラック)』です。
この調色法で作った黒は、わずかに赤みや緑みのニュアンスを含んだ「生きた黒」となり、周囲の色と美しく調和します。「少し温かみのある黒にしたいなら赤を55%」「冷たく重厚な黒にしたいなら緑を55%」といった具合に微調整することで、まさに300色以上の黒を使い分けることが可能になります。