キヤノン電子のオフィス改革を語る上で、椅子がないことは氷山の一角に過ぎません。同社の経営戦略の根幹にあるのは徹底した「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」と「ムダ取り」であり、椅子撤去と連動した独自のルールがいくつも存在します。
まず有名なのが「秒速1.5メートルでの歩行」です。社内の廊下には距離と秒数の目安が記されており、一般的な大人の歩行速度(秒速約1.0〜1.2メートル)よりもかなり速いペースで歩くことが求められます。これには「行動のスピードを上げれば、思考のスピードも上がる」という行動心理学的なアプローチが込められています。
さらに、オフィス内の引き出しや個人ロッカーを極限まで減らす「赤札作戦」も徹底されました。1ヶ月以上使っていない書類や文房具には容赦なく赤い札が貼られ、不要物として廃棄・撤去されます。かつては「連絡手段をメールに頼りすぎると直接対話が減る」という理由で、社員のパソコンを一時的に没収したり、日中のメール送信を制限したりする荒療治まで行われました。一見すると奇抜に見えるこれらの施策は、すべて「付加価値を生まない作業時間をゼロにする」という一点に集約されています。