現代でこそ「甘えん坊」として親しまれる黒猫ですが、人類との歴史は決して平坦なものではありませんでした。特に中世ヨーロッパにおける歴史的背景は過酷を極めました。キリスト教的世界観の広まりとともに、闇夜に溶け込む黒猫は悪魔の使いや「魔女の使い魔」とみなされ、無差別に迫害・虐殺された暗黒の時代が存在します。
この過酷な淘汰圧が皮肉にも黒猫の気質に影響を与えたという仮説もあります。人間に対して敵意をむき出しにしたり、攻撃的であったりする個体は真っ先に排除され、人間の機微を察知して従順に振る舞える賢く温和な個体だけが生き延びることができたという進化生態学的な視点です。
一方、日本における歴史的背景は対照的でした。平安時代、宇多天皇の日記『寛平御記』には、父親から譲り受けた黒猫の美しさと愛らしさを絶賛する記述が残されています。黒猫は「夜目が利く」ことから魔除けや幸運を招く「福猫」として珍重され、江戸時代には結核などの難病除けや商売繁盛の象徴として愛されてきました。迷信によって不当に恐れられた西洋と、神秘の霊猫として丁重に扱われた東洋。いずれの文化圏においても、人間に寄り添う気質を持っていたからこそ、黒猫は過酷な歴史を乗り越えて今日まで愛され続けています。